V. 野良犬コビーとの出会い - 岡田由美子 - 2003年10月

「今日、会社の駐車場にかわいそうな犬がいてね。交通事故か何かで動けないみたいでぐったりしているんだ。」 

 去年の8月のある金曜日、うかない顔をしながら主人は帰ってくるなりこう言った。「野良犬かなぁ。」「多分…。何匹か他の野良犬が側にいたから。」「小犬?」「ううん。結構おっきな犬。」週明けの月曜日。「先週、言ってた犬ね、まだいたんだよ。駐車場の僕がいつも車をとめている真ん前に。かなり衰弱していて、おなかのあたり肉が見えてて蟻がたかってるんだ。会社のウェアハウスに運んで水と缶フードをあげてみたら少し食べたよ。今晩もつかなぁ。」 

 翌日火曜日の夕方。私の職場に主人から電話がかかってきた。「あの犬、これ以上、会社においておけないんだ。どうしよう。」「どうしようって…。連れてかえってくる?それしかないよね。」犬のことは全く無知な私達だ。ちゃんと世話ができるのだろうか。でも今は考えている時間もない。その日の晩、大きなダンボールに入れられて彼は我が家にやってきた。後ろ足が骨折しているのか片方は曲げたままだ。もう一方の後ろ足と下腹部は灼熱のアスファルトに数日間横たわっていたせいか、焼けただれたように肉がでていた。それでも顔を近づけると精一杯の力で起き上がって私の顔をなめようとし、弱々しくしっぽを振っている。「あとどの位生きられるかわからないけどここではゆっくり休んでていいからね。」その犬は私達の故郷、神戸を英語読みしてコビーと名付けた。 

 翌日、知人の協力でドッグレスキューをしている女性の電話番号をいただくことができた。電話してみると、すぐに獣医にいきましょうとのこと。職場を早退し、その女性と獣医へ直行した。「手術しても完全に助かる見込みはありません。どうしますか。眠らせますか?今、決めて下さい。」獣医は即答を求めてきた。手術や入院費で三千ドルはかかるのでは…とレスキューの女性は教えてくれた。そんな大金私達に出せるわけがない。眠らせるという言葉はきれいだが、それって殺しちゃうことなんじゃないか…。その時、「神がすべてのことを働かせて益としてくださる」という、聖書のことばが浮かんだ。携帯電話を借りて主人に電話をしてみた。「どうなるかわからないけど、できるだけのことをやってみよう。」コビーが目を開き首を持ち上げ私の涙をなめようとした。心は決まった。 

 その後、コビーは驚くような回復力を見せ、手術もせず、一週間で退院してきた。同時期に我が家にホームステイを希望する学生からのオファーが入ってきた。三週間食事付きで450ドルでどうかという。コビーの治療費の足しになればと私達は引き受けた。まもなく獣医から治療費の請求が来た。その額は予防注射分を入れても415ドルだった。 

 コビーは今、すこし足をひきずりながらも元気に走り回っている。先住猫二匹とケンカしたり、いたずらもすごい。でもかわくていとおしくて仕方ない。私のいのちを救って家族にしてくださった神様も私のことをそんなふうに見ているんだな、と素直に信じられた。